Il biglietto (切符)

天気予報通り、1月24日は朝から久しぶりの晴模様。ベズビオも顔を見せました!この日の午前中はどの家も洗濯に大忙しで、物干しは満艦飾の大賑わい。

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(これで、ちょうど朝の7時。「南国ナポリ」とはいえ、北緯41度。実は青森よりも高緯度です。)

 

仕事も一段落ついたので久しぶりに街へ、と思いつつ、あらためて公共交通機関の料金体系が1日1日を境に切り替えられたことを思い出しました(八瀬の山里の世捨て人のようだなあ)。

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左の青い切符が、昨年末までの切符。ナポリは欧米の多くの都市がそうであるように、ゾーン制運賃を敷いている。ゾーン制とは、都心から同心円状にいくつかのゾーンを設定し、同一ゾーン内は原則として単一運賃で一定時間内の乗り換えが自由、というシステム。ナポリの場合、これまでは同一ゾーン内、90分1.3ユーロでした(ヨーロッパの大都市としては安いと思う)。これで、地下鉄、ケーブルカー、バスが時間内乗り放題だった訳です。

ところが、1月1日に運賃体系は変更され、ゾーン制を残したまま、時間制が原則廃止され、チケットは1回券(ま、日本と同じ)に変更されました。料金は同一ゾーン内1ユーロ。なお、90分券も細々残りましたが、「異なる交通機関の乗り換え券(例えば、地下鉄とバス、地下鉄とケーブルカー)」と位置づけられ、時間内でも同一手段を複数回利用することは出来なくなりました。要するに、同じ切符で地下鉄に2回は乗れなくなったということです。写真右が、新たに導入された1ユーロ券。

 

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(駅の公告。左から、1回券(1ユーロ)、2ゾーン用1回券(1.2ユーロ)、1日券(3.5ユーロ、0.2ユーロの値下げ)、1週間券(12ユーロ)、1ヶ月券(35ユーロ))

 

さて、この料金体系変更は何が狙いなのだろう?利用者視点では、これまでの90分券を単純な「片道切符」で利用する場合には0.3ユーロの値下げとなり、逆に手短かな用をすませるために地下鉄で単純往復したり、途中下車する場合には割高になる。一方、都市交通体系としては、90分券が残されたとはいえ乗り換えの制約条件が増えたため、なにか先祖返りしてしまった様な気もする。

1つは収益性の重視。昨年までの切符の発行主体は州の交通局(Unico Campania)で、今年からはこれが市交通局(Azienda Napoletana Mobilita)に変わっている。地方分権と独立採算の抱き合わせというストーリーは日本の地方行政でもしばしば言われるがさて?

もう1つは、切符の不正使用への対応。コンパクトシティナポリは、90分あれば優に地下鉄で終点から終点まで単純往復できる。このため、使用後の切符を他者が貰い受けるという「節約」が成り立ちうる。交通局(ANM)のサイトにも、そのあたりが書かれている。

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(4ポツ目に、Una volta convalidato, il biglietto é personale ed incedibile. : 一旦、改札を通したチケットは、その個人のものであり、譲渡できません、とある。)

たしかに、これまではしばしば、改札口を出た乗客に、(まだ有効時間内の)90分券をせがむ低所得者や若者の姿を見かけた。また、道ばたに捨てられている切符の有効時間を見ている人々の姿も。そして、週末の繁華街(Via Toledo や Vomero)に集まる若者達の中には、地下鉄職員を挑発するため、わざと改札機の前で降車客から切符をせびり獲り、これ見よがしに「無賃乗車」を誇示する輩も少なからずいた。今回の変更が、そのあたりに端を発しているとするならば、その主眼が経済効果にあるのか、社会的な効果にあるのかはともかく、まあ致し方の無い気もする。

ナポリの場合、今回の規制のターゲットであろう地下鉄は2路線しかないため、さほどの問題は生じない。これが、パリやベルリンの様に、異なる運行主体(パリはメトロと国鉄、ベルリンはSバーンUバーン)を含む網の目の様なネットワーク体系を持つ都市の場合は、こうは単純に「1回券化」はできないであろう。そもそも、日本のように「複数の運行主体が入り乱れ、(異なる会社線に)乗り換えるたびに初乗り運賃を取られる」制度は、世界の大都市交通体系の中では例外で、世界の都市地理学者の評判も極めて悪い(マリア先生も驚いていた)。なまじ旅慣れた彼らは、スイカを買ったりするものだから、最初はその利便性に驚き、次に乗り換えているとデポジットが激減する運賃システムに驚く。ここまで個人所有型ICカード(スイカ、パスモ等)が発達した以上、同一ゾーン内、時間制限付き乗り換え自由、という管理はシステム上は簡単にできるはずなのだが。現実的には、数多くの私鉄が相乗りして成立している現状の都市交通体系では、経営的にも、富の分配ルールの合意という点でも、困難なのであろう。

さて、ナポリの新システム導入から1カ月、市民の評価はどうなのでしょうねえ。

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(最寄り駅のヘタレた自販機。新システムの公告が賑々しく貼られているが、自販機は新システムに対応しておらず、Bigliettoはお近くのタバッキ(街の何でも屋さん)か、有人出札所のある駅で買ってね、とある。そもそも、日本の多機能型自販機数台分のスペースをとっていそうな巨大マシーンが販売する券種は5種類に過ぎず、右下の紙幣受付口は昨年11月に引っ越してきた時から1度も使えたことがない。逆に日本の自販機は、あまりに高機能で良くわかないので、旅慣れた外国人ほどスイカの類に頼るのだという。)