Catania (カターニア)

今回のシチリアの旅の目的の1つが、カターニア大学のC先生との意見交換。イタリアを代表する商業地理学者です。

カターニアは、都市人口30万人、都市圏人口75万人で、パレルモに次ぐシチリア第二の都市です。長らくシチリアの「首都」機能が置かれていたパレルモとは異なりカターニアは経済都市。アフリカとの貿易港機能のほか、石油化学工業が発達しています。また、活火山であるエトナ山(3,323m)の山麓に発達した「火山と共生する都市」として有名。とはいえ1669年の噴火ではカターニア市街に達した溶岩流により12,000人を超える市民が犠牲になるなど、その道程は平坦ではありません。ナポリの聖ジェンナロと同様、カターニア市民は守護聖人の聖アガタに「エトナ火山の安寧」を祈っています。

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(商業核であるエトネア通りから望むエトナ山の稜線。山に向かって勾配が急になるエトネア通りと併せて、「火山との共生」を実感する)

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(ドゥオーモ前広場に置かれた「象のオベリスク」(左)。1669年の大噴火後に設けられ、古い溶岩に刻まれた象の土台の上にオベリスク、その上に守護聖人聖アガタの象徴が置かれ、エトナ火山の安寧を祈る。右はフレデリックⅡ世が築いたウルシーノ城の濠。13世紀の建設当初は海城だったが、1669年の溶岩流によって濠は埋まり、陸地ははるか海側に広がった)

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(エトネア通りの南部。建物の低層部分に使われている黒っぽい石がエトナ火山がもたらした溶岩。被災後の都市再生の過程で、溶岩の後片付けを兼ね、建材として利用されたとのこと)

 

C先生との意見交換でも話題になったが、カターニアは典型的なコンパクトシティ。CBD(シチリア大通り)、商業核(エトネア通り)、最寄品の商業集積(Fera o' Luni地区)、そしてスラム化した旧市街(San Berillo地区)が、500m四方程度の地理的範囲に収まってしまう。

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(CBDとなるシチリア大通りの入口。左の像はカターニアが輩出した大作曲家ベッリーニ。右の建物はシチリア銀行のカターニア総支店。シチリアは経済規模の割に銀行はじめ金融機関が多い。一説には、マフィアのマネーロンダリングのためと言われる(例えば、竹山博英「マフィア-シチリアの名誉ある社会」朝日ジャーナル,1983年5月13日号~6月17日号))

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(スラム化した旧市街のSan Berillo地区。パレルモ同様、市主導による再開発計画が進められ、立ち退きが進んでいるが、立ち退き交渉は難航しているとのこと。小生も写真撮影中、「市役所から来たのか」と怒鳴りつけられた。空き家をコンクリで塞ぐ手法はパレルモと同様)

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(エトネア通りから1本入った広場近くに配置された最寄品商店街。繊維品は圧倒的に中国系の店舗が目立つ)

 

さて、カターニア滞在中、チュニジアチュニス)での乱射事件が起きました。再びご心配下さるご連絡もいただきましたが、お陰様でイタリアはいたって平穏無事です。とはいえ、カターニアチュニスは目と鼻の先。定期航路もあります。イタリア人が4人犠牲になったこともあり、この間、イタリアのTVニュースはこの事件をずっと報道し続けています。犠牲者の冥福をお祈りします。

本人は、タオルミーナメッシーナを経て、3月20日夜、11日間のシチリア一周(結局そうなってしまった)を終えナポリに戻りました。今回は、沿岸部を一周したため、内陸部のいくつかの魅力的な(興味深い、あるいは社会的矛盾が露出した)都市や町に足を運んでいません。これは4月以降の宿題です。

あらためて、シチリアは文明の十字路(ギリシャ、ローマ、ビザンチンイスラム、ノルマン、アラゴンとスペイン・・・)であり、魅惑的な街並み、美しい建物・美術品が数多く残されている一方で、社会的、経済的な矛盾も非常に大きいことを実感しました。30年以上前、竹内啓一先生が論文に書かれたシチリアの状況は、今日も大きくは変化していないようです。経済規模に対して妙に数が多い金融機関や、異様に整備が進む高速道路と公共建築などは、そうした歪みの一端を示しています。イタリア政府は、(自治権の強い特別州でもある)シチリアに「十分な」支援と公共投資を行っていると主張します。「十分」であるか否かはさておき、イタリア政府やEUから膨大な投資がシチリアに流入していることは確かです。その結果、誰が潤っているのか、なぜ一般市民(とりわけ農民)の多くがその恩恵にあずかれないのか、このテーマは商業・まちづくりにも関係する深い問題です。

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 (モディカの住宅地に書かれていた落書き。LA MAFIA è una montagna di MERDA:マフィアは糞の山だ)