Monaco ③ (ミュンヘン ③)

パリと同様、ミュンヘンも建築物の高さ制限に厳しい。アルプスを望む古都の景観に対する意識は厳しく、1996年には「歴史的な景観を保全すべき旧市街地内部の景観や旧市街地から見える重要な眺望景観の保全」が市の基本方針とされました(カギ括弧内は、大澤昭彦(2009)「建物高さの歴史的変遷(その2)―海外における建物の高さと高層化について―」土地総合研究2009夏)。

これにともない、ミュンヘン市が高さ制限の上限としたのが「99m」。この高さは、街のランドマークであるフラウエン教会(聖母教会)の双塔のうち、やや高い北塔に由来します。

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(朝焼けに浮かぶフラウエン教会の双塔。高さ(顕在性)といい、デザイン(浸透性)といい、たしかにランドマークとしての条件を備えている)

この「フラウエン教会の99m」は、1996年の明文化以前から実質的な「基準」として扱われてきました。たとえば、マリエンプラッツの北西約4.5kmに位置するBMW本社ビルは、1973年の建設時に「高さ99m」で建築許可が下ろされたため、高さを抑制する形で設計を変更しています。

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(聖ピーター教会の塔上から望むフラウエン教会の双塔(左)とBMW本社ビル(円内))

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BMW本社ビルの近景。4気筒エンジンのシリンダーを表象した建築物とされる。左下の「おわん」型の建物は観光名所でもある自動車博物館で、当初は博物館もビル内に入る予定であったが、高さ制限のために断念し、隣地に移されたとの「逸話」があるが、真偽の程は確認していない)

しかし、BMW本社ビルの例を見るまでもなく、高さ制限が都市の容積率の上限を規定する以上、経済成長とともに(あるいはその持続を求めて)高さ制限の緩和を期待する声が高まることも確か。ミュンヘンでも、高さ140mを越えるビルの開発が一旦は手続き上認められ、この賛否を問う住民投票が2004年に行われた結果、僅差ながら反対派が過半数を上回り、あらためて高さ上限99mの有効性が確認されるとともに、99mを下回る高さでも高層建築物を建設する場合は、市の外周約3kmを通る中環状道路(R2:ミッテルリンク)の外側でのみ許可することが市議会で決議されました(上掲、大澤論文による)。高層建築物をめぐるミュンヘンの経緯は、モンパルナスタワーをめぐるパリの経緯とよく似ています。何よりも経済的な是非論を越えて、建築物の高さ制限維持を支持する世論の存在が、優れた都市景観を支えていることは疑う余地がありません。

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(現在、ミッテルリンクの外側で高さ99mを上限とする高層建築物が集中的に開発されているR. Strauss Str.地区(円内))

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(中央の道路がミッテルリンクの一部となるR. Strauss Str.。通りの右側=外側に高層建築物が集中的に建設されている)