Il commercio ambulante e la grande distribuzione (移動商店と大型店)

 ナポリに長く住み、その都市の有り様を「イタリアの都市の基準」と考えると、他の都市で面食らうことも少なくない。その1つが、中小商業者が集積する、いわゆる「商店街(shopping street)」の存在である。ナポリでは、ピナセッカ通りをはじめ、生鮮品、最寄り品に特化した商店街がいくつも賑わいを保っているが、ピナセッカに相当する商業集積を中心市街地で見ることのできる都市は希である。

 Via Pignasecca (ピナセッカ通り) - Dov'e il centro urbano?

 立地論的には、消費者の出向頻度と出向距離は反比例する。このため、出向頻度の高い最寄り品の集積ほど、人口集中地域に近接して立地しやすい。これが見られない理由は、1)都心の定住人口が商業を維持できないほど減少したか、2)郊外型大型店などの競合施設に客を奪われたかのいずれかになる(と、日本の常識で考えてしまう)。

しかし、イタリアの場合、実は1)でも2)でも無いケースが地方都市ほど多く見られる。あえて3)と番号を付けるならば、移動商店の影響力である。町の広場などで、主に午前中などに開催される市場にテントを設け、生鮮品、日用雑貨品、衣料品、電気製品などを扱う小売業者を、イタリアではcommercio ambulante(移動する商業)と総称する。決められた時間が来ると店をたたんで撤収する(時間を決めた出店)という意味であろう。カターニアは、シチリア最大規模の移動商店による市場を持つ都市である。クリスマスなど例外的な日を除き、毎日朝7時頃から午後2時まで中心市街地のPiazza Carlo Alberro(カルロ・アルベッロ広場)で開設されている。C先生によれば、市場に供されるスペースは26,800㎡、登録されている業者数は約650店(一度に全店舗が出店するわけではなかろうが)というから、その規模はそこいらの大規模商店街を優に上回る。

この移動商店は、集積の効果が高い一方で、地代負担力が低いため、価格競争力が高い。そうでなくても、1960~70年代の「暗黒大陸」時代の日本の流通システムに似て中間流通が複雑であり、単純な規模の経済性だけは価格が決まらないイタリアである。移動商店の商品価格は、総じてスーパーマーケットのそれよりも安い。こうした移動市場が強い地域では、路面店型の小規模店は発達しない。人口密度の低い地域において、所得水準に応じた価格で商品を供給するシステムと考えることもできる。

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(カルロ・アルベッロ広場を毎日埋め尽くす移動商店)

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 (左は衣料・雑貨品のゾーン、右は果物・野菜のゾーン。市場の中は、商品のカテゴリー別にゾーニングされている)

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(午後5時のカルロ・アルベッロ広場。上と同じ位置からの写真だが、広場を埋め尽くしていた移動店舗はきれいに撤収され、掃除と散水も終了し、左奥では子供達がサッカーに興じている)

 

カターニア市内には、もう1つ、水産品を中心とする魚市場が存在する。こちらも早朝~昼前後の営業であるが、場所が観光名所となっているドゥオーモの至近距離ということもあって、ちょっとした観光名所になっている。

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(賑わうカターニアの魚市場。朝8時くらいだが、地元の人に混ざって、結構、観光客とおぼしき人の姿も見る)

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(カジキマグロなどの大型魚は、落書きの通り?豪快に輪切りにして捌く)

 

一方、こうした伝統的な小売商業の対極にあるのが、郊外型大型店である。日本と同様、地代を反映して都心には立地しない。郊外の工場跡地やインターチェンジのそば、複数の地方都市を結ぶ交通量の多い生活道路の中間など、その立地指向性は日本の「イオンモール」や「YouMe Town」と酷似する。

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(2006年に開業した「one box」型のetnapolis。南北に長い箱形施設の中に、わざと屈曲させた通路が通り、その両側にテナントが並ぶモール構造は、イオンモールに似ている。ただし、イオンモールの場合、長辺の両サイドに吸引力の高い大型店を置いて回遊性を高める「2核1モール」方式が基本構造であるのに対して、etnapolisは、通路を西側にずらし、狭い西側空間を小型店が、また広い東側空間を大型店が占める構造となっている。テナントはどの都市でも見かけるチェーン店が多く、商店配置と併せて目新しい発見は無いが、外壁を含めたデザイン性は非常に高い)

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 (2011年に開業したCentro Sicilia. 右に見えるメインモールを囲むように、DIY、自動車関連、日用衣料品などの専門大型店がt立ち並ぶ状況は、日本の郊外型SCと似ている。ただ、メインモールのCentro Siciliaは単層のフロアに2本の通路が通り、何カ所かの広場を含む、アメリカ型の贅沢な空間構成になっている。客単価の高いアウトレットモールならともかく、地代の高い日本では難しかろう。それでも(それゆえ?)核店舗として入るスーパーマーケットの商品単価は、平均的には移動商店より高い。この地域は、前回紹介したLibrino地区に近く、商圏住民の平均所得は必ずしも高くはない。「彼らの多くは、SCに涼みに来て、雰囲気を楽しみ、時間を消費し、映画を見る。そして最寄り品の買い物は、専ら中心市街地のカルロ・アルベッロ広場の市場でする」というのがC先生の言であった)

 

店から出ると、空模様は一転していた。この時期、陸地の気温が上昇するため、午後から夕方にかけて強い上昇気流が起きやすく、激しい夕立が降る。この日も、直後から大粒の雨が1時間近く降り続き、再び館内に避難を余儀なくされた。

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