Enna e Caltagirone (エンナとカルタジローネ)

カターニアからパレルモまでシチリア横断の往復ドライブ。3月に発生した地滑りで、鉄道はなお一部区間が不通となっているが、流石に生命線の高速道路網は早々に復旧していた(厳密には、最短経路はなお不通だが、並行する一般道で難なく迂回できる。当初報道された迂回経路の渋滞も解消していた)。

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(迂回経路から望む中部シチリア(エンナ県)の景観。トスカーナなど半島中部とは異なり、全体的になだらかな丘陵が続き、粗放的な牛・羊の牧畜業やオリーブの栽培、そして都市近郊では酪農、園芸農業が営まれている。中央のアーチ橋は、日本だと頑健な構造から古い鉄道橋の道路転用と考えてしまいがちだが、イタリアでは最初から道路橋である。大変牧歌的な景観であるが、イタリアのドライバーは迂回路を100km/h以上で飛ばすので、運転中は風景を楽しむいとまが無い)

パレルモ大のM先生とのミーティングも非常に有意義だった。もともとカターニア出身のM先生。都市ツーリズムが専門であるため、カターニアパレルモとの比較のほか、ツーリズムの視点から見たまちづくり政策の評価(批判)にも話題が広がった。もとよりカターニアのC先生とは旧知の仲で、お二人は大変親しいのだが、いくつかの論点では意見が明瞭に分かれる。たとえば、C先生は「中心市街地活性化」の視点から、郊外に林立する大型店を「脅威」と捉える。一方、M先生は、パレルモ市民が、毎年のように新しいショッピングセンターが進出するカターニアへ買い物がてら観光に出かけていることを指摘し、観光資源としての集客力を評価すべきだと説く。また、急成長する中国系の繊維ビジネスについて、C先生は「低所得層に一定水準の衣料品を提供する不可欠な存在」と評価し、M先生は「5ユーロで買えるアルマーニのTシャツ(の偽物)を提供するビジネスは、都市ツーリズムの魅力であるブランド性、真正性をゆがめる」と否定的だ。無論「どちらが正しいか」では無く、視点が違うのだ。

カターニアへの帰路、往路は時間の関係でスキップしたいくつかの都市を見学する。エンナとカルタジローネは、いずれも今回立ち寄りたかった都市。エンナはオルヴィエート同様、巨大な岩塊の上に(岩塊下の新都市を含め)2万8千人の人口を載せ、エンナ県の県庁所在地となっている。

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(高速道路から望むエンナの遠望。切り立った周囲の断崖と街の規模は、山上都市と呼ぶにふさわしい。この写真は、3月のシチリア下調査の折、高速バスの車窓から撮影したもの)

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(街はずれのヨーロッパ広場に立つ「シチリア中央の記念碑」。イタリア人の好きなオベリスクだが、最近ロータリークラブが建てたものらしく、寄付者の氏名は麗々しく刻まれているものの、「中央」が、経度緯度の中央値なのか、地理的重心なのか、はたまた歴史的経緯なのかが何も語られていなかったのは残念。右は、ヨーロッパ広場で土、日、月開催されている市場。典型的な移動商業であるが、雑貨店に聞くと、週3日はエンナ、他の2日は(近傍の)カルタニセッタで開業とのこと。時間だけでなく、空間も含めた移動商業である)

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(「シチリアの中心」の基準はさておき、中世のシチリア王国以来、島の中心部に位置し、パレルモカターニア(古くはギリシャ都市シラクーザ)を結ぶ交通路の中間点にあるエンナが、シチリア支配の重要な拠点であったことは疑いない。街の高台には、フェデリコ2世が遺した(有名なカステル・デル・モンテのミニチュアの様な)望見台が残り、今日ではシチリア全域を商圏におさめるアウトレットモール'Sicilia Outlet Villedge'が郊外のアジーラ立地している。何と、日本語のホームページも持っている)

http://www.siciliaoutletvillage.it/ja

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(日没時に山上から望見すると、四方に山上都市の明かりが数珠つなぎに繋がっている様が見られる。エンナの標高は931m(最高点992m)で、標高の高さも歴史的には中心性を維持する重要な要素であったに違いない。一番奥に見える明かりが、Sicilia Outlet Villedgeのあるアジーラ(Agira))

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(アウトレット、高速道路、新型鉄道車両は、シチリア中部の景観を変えつつある。どうやらアウトレットモールは、高速道路のインターチェンジに隣接した産業団地の用地転換らしい。この種の「物語」は、日本の地方都市でもしばしば耳にする話である)

 

カルタジローネは、エンナの南東約60kmにあり、エンナとカターニアの中間点(カターニアから約70km)に位置する。シチリア王国の中興の祖ルッジェーロ2世は、イスラム文化を積極的に導入した王として知られ、地理学の世界でも、アラブ人の地理学者イブン・イドリーシが地球球体論を前提として表した世界地図「ルッジェーロの書」によって知られる。このルッジェーロ2世が導入したイスラム文化の1つが製陶技術であり、カルタジローネはその陶器生産を地場産業としている。素朴なマヨルカ焼で装飾された大階段が街のシンボルとなっており、守護聖人の記念日には無数の蝋燭によるイルミネーションが施される。市民公園にある陶器博物館では、初期の抽象的なイスラミック・デザインに始まり、徐々に具象化していく陶器デザインの変遷を見ることができる。

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