Itaria Centro ⑤ Pisa e Lucca (イタリア中部 ⑤ ピサとルッカ)

シエナからピサへ、エンポリ経由で2時間半ほどの鉄道の旅。エンポリの乗り換えで声を掛けられ、誰かと思えば一昨日お世話になったカメリエーレ氏と日本人の奥様。奥様は博多出身で、語学留学でシエナ滞在中にご主人と知り合った由。彼らの目的はシエナからピサへの日帰り観光。カメリエーレ氏は、ピサが初めてだそうで、「だって、斜塔とミラコーリ広場しか無いじゃん」。

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シエナエンポリ間をお世話になった気動車シチリアにも同型車がいたが、イタリアのローカル線で幅広く使われている)

 

たしかに、カメリエーレ氏が言うとおり、ピサは「斜塔」と、これを含むミラコーリ広場の建築群に尽きる。美術品では本家のシエナでもなかなかお目にかかれない、保存状態の良いシモーネ・マルティーニの多翼祭壇画などがあるが、一般的な都市観光という点では、すべてがミラコーリ広場に集中している。

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(繊細なピサ・ロマネスク様式の柱列が一層浮き立つ夜のミラコーリ広場。手前から、洗礼堂、大聖堂、鐘楼(斜塔)。ピサの斜塔は「欠陥建築」と良く言われるが、設計を担当したピサ・ロマネスク様式の大デザイナー・ボナンノ・ピサーノは、この3つの建物をすべて手がけている。斜塔が傾いたのは、局地的な地盤の不等沈下によるもので、「運が悪かった」というべきだろうが、これが世界的な観光資源になったのだから、何が幸いするやら分からない)

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(斜塔を「支える」撮影ポーズのほか、逆から「蹴倒す」ポーズも存在します。様々なキャラクターが斜塔を「支える」Tシャツが販売されているが、版権や如何に?)

 

都市見学という点では、「ミラコーリ広場に尽きるピサ」よりは、隣町のルッカの方がはるかに面白い。エトルリア人が拓き、ローマ帝国が方形の囲郭都市に発展させ、その後13世紀と16世紀の2度に渡って都市を(主に東に)拡大させた痕跡がきれいに残されている。一時期を除いて「自治都市」としての独立性を維持し、ほとんど軍事的な侵略を受けなかったからであろう。ピサからローカル線で30分ほど。

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ルッカの都市図。方形のローマ植民市、その外側に広がった13世紀当時の城壁、そして16~17世紀に構築された一番外側の堡塁が、きちんと分かる。ローマ時代の方形の道路配置を維持したため、建物に大きな影響を与えることなく、車社会にも対応している)

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(Duomoに安置されている、有名な「イラリア・デル・カッレットの墓」。15世紀のルッカ城主の二番目の夫人で、二番目の子供を出産した時に死去した。棺上の彫刻は、生前のイラリア夫人の姿と伝えられてきたが、最近では異説もあるそうな)

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(ツーリズムのもう一つの目玉は、ルッカで生まれ育った作曲家プッチーニ。生家(広場奥の垂れ幕がかかったレンガ色の建物)は博物館となり、生家前の広場には銅像が置かれている。博物館には、手筆稿のほか、彼が作曲に使用したピアノ、万年筆などが展示されている。面白かったのは、トゥーランドット初演時の衣装)

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(広場の周りには、彼の作品名に因んだレストランやカフェが建ち並ぶが、やや急ごしらえ感が残る。2008年の生誕150年祭に合わせたものか?「蝶々夫人」などは、プラスチックで拵えられた看板が半分はがれ、古い店名が露出していた)

 

ルッカで見たかったものが「ローマ円形劇場」の跡地利用。上掲の地図でも、ローマ時代の方形区割の右上にそれらしい地割が見えるが、円形劇場の跡地は、舞台部分がそのまま広場に、客席部分はそのまま住宅・店舗に置き換えられた。これだけ明瞭に地割を残しつつ、建物だけが置き換えられた例も珍しいのではないか。地上からの写真では不思議な感覚は伝わらないが、航空写真で見るとその「奇観」がよくわかる。ちなみに東京目黒の「元競馬場」にも似たような地割りが残されている。(が、こんな見事な広場があるわけではない。)

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(広場を「楕円形」に取り巻く建物群。外壁の一部には、ローマ時代のレンガや柱が流用されている)

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(絵はがきのコピー。空から見た「古代劇場跡」)

 

最後に、1周4.3kmの堡塁を2/3周してPisaへ戻る。堡塁の上は遊歩道になっており、ジョギングや散歩に最適。駒沢公園が一週2,150mなので、ちょうど倍の距離。いいなあ。

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Siena、Pisaと、2回続けてホテルで「Parli l'Italiano completamente(イタ語完璧じゃん)」とおだてられ、調子に乗って、Luccaの観光案内所で「Vorrei raccomandare alcuni vichi che hanno la atmosfera medievale?(中世的な雰囲気を残した通りをいくつか紹介してくれませんか?)」と訊いたところ、困った顔をされて「我々は公的機関なので、どこが美味しいかを伝えることはできない。こちらのレストランの地図を差し上げるので、どうぞ自分で探して下さい」と言われた。しょうが無いので、同じ質問を英語でしたら、今度は期待通りのお返事が帰ってきた。まあ、所詮この程度の「実力」である。