Viaggio nell' Inghilterra ③ Newcastle (イギリスへの旅 ③ ニューカッスル)

ニューカッスルは、広域調整機能の喪失が中心市街地に近接するEnterprise Zone(主に工場跡地)への大型商業施設の建設を誘導した典型例であろう。ニューカッスルはタイン(Tyne)川の北岸の台地上に広がる古代ローマ起源の古い都市であり、タイン川を挟んで南岸のゲーツヘッド市と対向している。1985年までは、両市を含む広域調整機能(Tyne & Wear Metripolitan Unit)が機能し、無秩序な開発が抑制されていたが、サッチャー政権下の規制緩和で1986年にこのUnitが廃止され、同年、ゲーツヘッド市のEnterprise Zoneに12万㎡の郊外型S.C.(Metro Centre)が進出した。

Metro Centreはニューカッスルの中心市街地からバスで20分程度、当時のニューカッスルの中心市街地には、1976年に建設されたEldon Square Shopping Centre(7.5万㎡)があったのみであるから、ニューカッスル側の危機意識は高まった。広域調整機能を持たない日本でも、大店法あるいはまちづくり3法(旧法)の時代に、商業調整が面倒な中心市を避けて、調整機能が及ばない隣接自治体の行政界すれすれに大型S.C.を建設する傾向が見られたが、状況はこれと限りなく近い。

ニューカッスル市は、Eldon Square Shopping Centreの段階的増床、大規模駐車場の整備、Eldonを挟んでLRT駅とバスターミナルとを結ぶノーザンバーランド・ストリートの歩行者道路化などを進め、タイン川を挟んだ消費争奪に対抗している。

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(1986年に進出した郊外型全天候モールのMetro Centre。現在では16万㎡まで増床され、ニューカッスル中心市街地のEldon Squareと重複するテナントも多い。上の写真では規模がわかりにくいが、建設中の下の航空写真を見ると、12万㎡(当時)の規模の大きさが実感できる。左下の写真は、開業30年を記念して、センター通路で行われていた写真展の掲示写真)

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(2010年に増床を終えたニューカッスル中心市街地のEldon Square(上)。郊外と都心を結ぶLRT都心部は地下鉄)とノーザンバーランド・ストリート(下)。中心核の創出、LRTによる公共交通機関の整備、歩行者動線の確保という整備メニューは、マンチェスターバーミンガムと似ている)

 

さて、イギリスの都市商業政策はクリスタラー中心地理論の理念に近く、伝統的に、中心市街地の高次商業核の整備とともに、住宅地域の近隣型商業核の整備・維持にも力を注いできた。供給地の郊外化は、ご多分に漏れず買回り品のみならず最寄品でも進行している。しかし、郊外型S.C.に負けて近隣型の商業施設(商店街、小型スーパー)が衰退した場合、所得による居住地分化(segregation)が進んでいるイギリスでは、低所得層の集住地域を中心に深刻な「消費アクセス困難」(food desert)問題が進行しやすい。このためニューカッスルでも、低所得層の比率が高い市の東部(Walker地区)を中心に、自家用車を使わずに徒歩でアクセス可能な近隣型商業集積の維持に注力している。

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(現在、ニューカッスル郊外で最も勢いがある(と図書館で紹介された)Kingston Court。24時間営業の大型スーパーTescoを核とする最寄品ゾーン、百貨店Marks & Spencerを核とする買回り品ゾーンなど、4つのブロックからなる郊外型S.C.。LRTのKingston Park駅からも近く、公共交通利用でも買い物に来れるのがミソ)

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(Kingston ParkからLRTで3駅のGosforth Southにほど近いGosforth S.C.(上)。1980年に近隣型のS.C.として新設されたが、周辺の商圏は自家用車保有率の高い中産階級が主体であり(左下)、S.C.の空洞化が進んでいる(下右)。

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(市の東部にあるWalker, Walkerbridge地区の商店街Shields Road(上)。1990年代までは衰退が著しかったそうだが、周辺の商圏は、失業率30%以上、公営住宅供給比率50%以上、自家用車保有率30%未満という厳しい地域(左下)。政策的に商店街の入口にディスカウントスーパー(Morrisons:右下)を導入するなど商店街機能のてこ入れを図り、food desertの阻止に努めている)

 

おまけ

ニューカッスルは、古代ローマの北限に近い。良くここまで来たという気がする。現在のニューカッスルには2カ所、北方からの侵入を防ぐ「ハドリアヌスの城壁」が残されている。現在、城壁の内側はチャイナタウン。古代の壁と城門のミスマッチがまた何とも言えない。

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(夕食は海鮮炒麺をいただきました。値段が高い割に味がいまいちな(個人的感想です)イギリスでは、エスニックタウンは夕食に欠かせない)